肺について

肺の主なはたらきは一般的には、呼吸であり呼吸に関連して発声(のど)や初動免疫(はな)などのはたらきが連動するものです。

 

東洋医学的には、呼吸をしている間にもほかの臓と連動することで幅広く身体活動が行われるとされています。

 

と同時に、肺が精神・感情と相互作用をもち、体表のはたらきとの関連が深い点に着目し、漢方薬や養生法に活かされているのが特徴です。

 

では、身近なところではどのように応用されているのか、東洋医学から見た原理をまじえて見てみましょう。

 

T.肺の性質

 

収斂作用

 

肺は、季節としては秋に対応しています。

 

秋に活発に働くことで徐々に冬向けのカラダに仕上がるのです。具体的には、夏の発汗作用を引き継ぎながらあるていど汗を出し切ったところで皮膚をきめ細かくして体表の守りを強めるのです。

 

このメカニズムをひと言で表したのが『スポーツの秋』という言葉なのです。

 

この説から言えば、秋も深まり冬に差し掛かってからも大汗をかくような運動を行うと、逆に皮膚の守りをゆるめて寒さに弱い・風邪をひきやすいといった冬を過ごす可能性があります。

 

乾布摩擦などもこの肺・呼吸⇔体表の循環を利用したものであります。

 

気・魄

 

肺から入った空気は漢方では「天の気」とされ、肺からカラダの各所の循環をサポートすることで様々な活動が成り立つとされています。

 

現代医学的にはO2とCO2のいわゆる『ガス交換』ですが、東洋医学的には肺が流通させる「気」にも場所や性質が異なることからこのような説明がされています。

 

そして主に循環するエネルギーを「気」と呼び、臓などの部位ごとに固有に働く定所のエネルギーを「精気」と呼ぶことがあります。この定所のエネルギーが肺では「魄」となります。

 

水を巡らせる

 

全身の循環を助ける肺の作用は、呼吸には直接的に管理するとともに、水分代謝は間接的に行う存在です。これは発汗の量を調節したり、消化器での水分吸収などにかかわっているからです。

 

これが不調になるとむくみや、湿気を帯びた咳、ぜんそく様症状などにつながります。

 

相傳の官(そうでんのかん)

 

中国発祥の医学理論・哲学理論は兵法・武将に例えた説明を好みますが、ここでは「補佐を行う官僚」というほどの意味です。

 

つまり、肺が何を助けているのか。主には、同じ高さにある「心の陽気」を全身に配分する手伝いを「肺の気」がおこなっているはたらきがこれに該当します。

 

憂い

 

皮膚を引き締める。肺に気を収蔵する。こうした正常な内向きの作用を「憂い」と例えて表現しています。また、病的になって愚痴っぽくなる・憂い悲しむといった状態も合わせて説いたものです。

 

U.肺の支配部位

 

 

肺の安定が嗅覚には必要だと、中国の古典では説明しています。気の流通が充分であれば、鼻からの外気の取り込みや粘膜面のはたらきが正常に行われるためです。

 

皮膚・体毛(皮毛)

 

皮膚はカラダの最も表で体を包み守るものです。これを肺が支配するということで、体表面を収斂させると同時に、陽気をめぐらせて陰陽の調節をおこなっています。

 

そこで特有なコンセプトが皮膚にあるとされる「?理」です。体表の守りを強調している点に特徴があります。

 

  • 皮膚周辺の熱や水分が多い時には陽気を動員して排出します。これは汗腺のはたらきとほぼ同じといえます。
  • 外気温が低い寒い時には、「適度な」陽気によって?理が閉じて皮膚を引き締めます。陽気が十分でないと戸締りが不十分な窓のように寒気の侵入を許すことがあります。

 

寒い時期に汗をかきすぎて、?理が緩んでも同様のことが起こります。つまり、カゼの初期です。

 

寒気が侵入すると(しようとすると)、寒気とカラダの熱とのせめぎあいが起こります。

 

この戦いのステージの深さや、期間の長さなどによって現れる症状や処方される漢方薬が刻一刻とかわります。

 

ここから派生して胃腸症状につながったり、思わぬ後遺症や一見関係のない難病につながる可能性も少ないながらあるため、先人は『カゼは万病のもと』といったのです。

 

また、発熱により寒気がたどってきた道を逆戻りするように、汗と一緒に排出すれば当然治るとされているため、現代医薬で却ってカゼが長引くメカニズムの元にもなっています。

 

と、このように時には東洋医学が「気の医学」と言われる所以が垣間見えるのではないでしょうか、

 

体毛も肺の支配を受けるのですが、体表で気が働きやすくするために存在しています。

 

気がめぐりやすい体質の人は、肺からの気の動員が早いものの気というのは体表で定着するものではないので、なんらかの拠り所が必要です。そこで体毛があることで、気は緩やかに体表を移動しつつ発散できるのです。

 

声呼吸器に付随する機能である声は、肺のコンディションがよく表れます。良く吸える・良く吐ける証左であります。

 

V.肺と辛味

 

肺の性質が収斂という内向きの流れであり、陽気はカラダの各所を巡って発散に働いているので内向き・外向き、保温・発散など二重支配でバランスを保っています。

 

そこで、陽気の循環が不足・停滞した時に辛味の食物や生薬で循環や発散を促すことができます。また、インドのカレーのように暑気ばらいなどに応用もできます。

 

ただし、辛味の質によっては熱をこもらせたりするので日本人には唐辛子系の辛味は比較的少量が体質的に向いています。また、寒いときに発散しすぎて冷える場合もありますので、エスニックなものが冬は向かない方もいらっしゃいます。

 

しかし、ショウガの辛味などは、熱がこもるといったおそれは少ないので、生姜湯・葛湯のようなものは日常的に用いて差し支えありませんし、冬にもゆるやかに陽気をめぐらせるものですので、古くから日本に伝わるものは日本の風土にあっていて、大きな間違いはないとみてよいと思われます。

 

W.肺と大腸、そして消化管・粘膜面

 

東洋・中国的な哲学をベースに見ると、肺の臓と大腸はウラとオモテの関係にあります。

 

もうすこし物質的に見てみると、皮膚というのはカラダでは外のオモテであるのに対して、消化管や膀胱・子宮の内腔面というのは内のオモテなのです。ちくわを連想していただくとよいかと思われますが、あの香ばしく焼きあがった面が『皮膚』で、チーズやキュウリを詰めると美味しい面が『粘膜面』ということになります。

 

したがって、肺の気をめぐらせる機能に支えられ、外界に対して防衛と交流を行うという点では共通しているのです。

 

近年、アトピーや花粉症など免疫―皮膚・呼吸器系疾患と腸内環境との関連が着目されるようになりましたが、『内のオモテで起こる事は、外のオモテでも起こる』というこの現象は、東洋医学の観点からも長きにわたって説かれていたというのはユニークなものです。

 

まとめ

 

四季があり、とくに風土との連動が求められる環境で暮らしてきた東アジアで、肺のはたらき―気候―養生法の連続した東洋医学の知識は、経験の積み重ねの中で発達してきた『体験知』といってよいでしょう。

また、一見荒唐無稽なようで西洋医学の新たな発見と整合性が取れる部分も有り、しかもそれが増えているのは興味深いものです。

そうした意味では、漢方薬も過去の遺物を単に掘り出したものではなく、いまだに進化の余地を秘めているのかもしれません。

今回、肺を中心に見てまいりましたが、過去のデータの積み重ねとして有益な養生法を生かしつつ、現代人に向けて常にマイナーチェンジを漢方は続けているのではないでしょうか。

防風通聖散


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